転職を考え始めたとき、多くの人が最初に手をつけるのが「自己分析」ではないでしょうか。本やネットの記事には「まず自己分析で自分の強みと軸を明確にしましょう」と書かれていますし、それが王道の順序だと信じられています。
ところが実際にノートを開いて「自分の強みは何か」「何がやりたいのか」と書き出そうとすると、手が止まってしまう。強みらしい強みが思い浮かばず、むしろ「自分には何もないのでは」と落ち込んで、転職活動そのものが止まってしまう。ご相談の場でも、この状態の方に本当によくお会いします。
今日お伝えしたいのは、その順序を疑ってみませんか、という話です。私は、転職準備は自己分析から始めなくていいと考えています。
私自身、自己分析で立ち止まった経験があります
私がキャリア支援の仕事をする原点には、自分自身の苦い経験があります。かつて進路選びに悩んでいた頃、私は言われた通りに自己分析から始めました。過去を振り返り、強みを探し、やりたいことを言葉にしようとしました。しかし、誇れるような実績のない自分の過去をいくら掘っても、出てくるのは平凡なエピソードと、ダメな自分の再確認だけでした。
そんなとき、あるセミナーで「自己分析をしても、誇れる材料がなければ何も出てこない」という言葉に出会い、頭を殴られたような衝撃を受けました。順序を変えて、まず動くことから始めた途端、あれほど停滞していた状況が動き出したのです。この経験は、社会人の転職にもそのまま当てはまると感じています。
材料がないまま内面を掘っても、不安しか出てこない
考えてみれば当然のことです。自己分析とは、自分の中にある材料を整理する作業です。ところが転職を考え始めた段階では、多くの人は「世の中にどんな仕事があり、自分の経験がどこでどう評価されるのか」という外側の材料をほとんど持っていません。
材料がない状態で内面だけを掘り続けると、比較対象がないぶん、どうしても自分の欠点や不安ばかりが目につきます。「これといった強みがない」「やりたいことが分からない」という結論に行き着いて、動けなくなる。これは分析が足りないのではなく、分析するための情報がまだ手元にないだけなのです。
「軸」を先に固めすぎると、選択肢が狭くなる
もうひとつ、先に自己分析をやり込むことの副作用があります。それは、軸が先に固まりすぎてしまうことです。「自分にはこの業界しかない」「この職種以外は考えられない」と早い段階で決めてしまうと、見る求人の範囲が一気に狭くなります。
その狭い範囲でうまくいけばよいのですが、もし思うように進まなかったとき、拠り所にしていた軸ごと崩れてしまい、立て直しに時間がかかります。軸は大切です。ただしそれは、活動の入り口で完成させるものではなく、活動を通じて育てていくものだと私は考えています。
まず動いて、市場の反応から自分を知る
では何から始めるか。私がおすすめしているのは、まず動いて、市場の反応から自分を知ることです。職務経歴書を一度書いてみる。気になる求人に目を通してみる。可能なら実際に応募してみる。すると、書類が通る・通らない、面接でどこに興味を持たれるか、どんな質問をされるかという「外からの反応」が返ってきます。
これは、机の上の自己分析では絶対に手に入らない、客観的な情報です。自分では当たり前だと思っていた経験が意外に評価されたり、アピールのつもりだった話が響かなかったり。その反応の積み重ねが、結果的に精度の高い自己理解につながっていきます。
最初の一歩は、これくらい小さくていい
とはいえ「まず動く」と言われても、何をすればいいか迷うと思います。私がおすすめする最初の一歩は、職務経歴書をとにかく一枚書いてみることです。完成度は気にしなくて構いません。これまで所属した部署、担当した仕事、任された役割、工夫したこと、数字で言えそうな成果。思い出せる順に書き出して、一枚の形にしてみる。それだけで、自分の手持ちの材料が初めて目に見えるようになります。
並行して、求人を「眺める」習慣を作ってみてください。ここで大事なのは、受けるか受けないかを決めながら見ないことです。品定めを始めると途端に手が止まりますから、最初はただ、世の中にどんな仕事があり、どんな人が求められ、どんな条件が提示されているのかを知るための読み物として眺める。通勤の合間の十分でも構いません。週に数時間、これを続けるだけで、外側の材料は着実に増えていきます。
やってみると分かりますが、経歴書を書く作業も求人を眺める作業も、それ自体が立派な自己分析になっています。書けない項目、目が留まる求人、条件を見たときの心の動き。机の上で唸っていたときには出てこなかった自分の輪郭が、手を動かすほどに浮かび上がってくるはずです。
動くと、「やりたいこと」は後から見つかる
「やりたいことが見つかってから動きます」という方にも、順序の話をさせてください。冷静に考えると、世の中にどんな仕事があるかをほとんど知らない状態で、やりたい仕事を特定しようとするのは、読んだことのない本の中からお気に入りの一冊を選ぼうとするようなものです。知らないものは、やりたいことの候補にすら挙がりません。
思い返してみれば、私たちの「やりたいこと」は、いつも出会いによって生まれてきたはずです。子どもの頃の夢が知っている職業の中からしか出てこなかったように、今のあなたの「やりたいこと」も、これまでの人生で触れてきた狭い範囲の中から選ばれています。だとすれば、その範囲を広げる行動こそが、やりたいこと探しの本体だと言えます。
実際、転職活動を進める中で、それまで名前も知らなかった会社や仕事に心を動かされる方は少なくありません。求人を眺め、話を聞き、面接で企業の内側に触れる。その一つひとつの出会いが価値観を耕して、ある日「これがやりたかったのかもしれない」という言葉が自分の中から出てくる。やりたいことは、探すものではなく、動いた先で出会うものだと私は思っています。
深い自己分析は「選ぶ場面」でこそ生きる
誤解のないように書いておくと、私は自己分析が不要だと言いたいわけではありません。むしろ、じっくり時間をかけた自己分析が本当に力を発揮する場面があります。それは、選択肢が目の前に並んだときです。
複数の企業から評価され、いよいよどこに進むか、あるいは今の会社に残るかを決める段階になったら、そこで初めて自分の価値観と深く向き合ってください。活動を通じて多くの会社や働き方に触れると、価値観は必ず変化しています。その変化した価値観で選ぶからこそ、納得のいく決断ができるのです。順序が逆なだけで、自己分析そのものはとても大事な工程です。
順序を変えるだけで、転職は動き出す
自己分析で足踏みしている状態は、能力の問題でも、やる気の問題でもありません。ただ順序が違うだけです。まず小さく動いて外の情報を集め、深い内省は選ぶ場面に取っておく。この順序に変えるだけで、止まっていた活動は驚くほど動き出します。
とはいえ、最初の一歩を一人で踏み出すのは、なかなか勇気がいるものです。栃木のように身近に転職の話をできる相手が少ない環境なら、なおさらだと思います。シンクキャリアでは30分の無料相談を行っています。何から動けばいいか分からないという段階のご相談こそ歓迎です。一人で抱え込まずに、一度話してみませんか。

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